2022年7月23日から10月9日に『フィン・ユールとデンマークの椅子』展が東京都美術館で開催されました。
デザイン大国でもあるデンマーク。
1940年代から60年代にはひときわ美しい名作家具がいくつも生み出されました。
華やかなひとつの時代を築き、今なお『デンマーク家具』は現代のインテリア空間のなかでその存在感を示しています。
椅子といえば『フィン・ユール』
世の中にある最も好きな椅子は何と聞かれたら『フィン・ユール』の『イージーチェアNo,45』ですね。
『フィン・ユール』の椅子は美しさを最大限にひき出すために極限まで追求したデザイン。
華麗な曲線や曲面持つ多くの椅子は『彫刻のような椅子』と言われています。
今回はその『フィン・ユール』の椅子を中心にその時代の名作家具を展示。
そして『フィン・ユール』の自邸の設計図、住居やインテリア空間、日用品に至るまで幅広く紹介していました。
イージーチェアNo,45はフィン・ユールによる1945年のデザイン。
デンマークを代表する名作家具のひとつと言われています。
練り込まれた精緻な曲面の流れが美しく『世界で最も美しい肘をもつ椅子』と言われています。この椅子がわたしはフィン・ユールの一番好きな椅子です。
シートの部分とフレームの間の隙間のスリットが絶妙で座面が浮いているように見える。
写真にある茶色いレザーの椅子は1949年フィン・ユールが16~17時間でデザインが完成されたと言われる歴史的な名作椅子。同年の家具職人組合の展示会にて出品。
国王が自ら腰かけたという逸話を残しています。『チーフテン(酋長)のチェア』と名付けられた椅子です。
古代エジプトの玉座に特徴が似ていることから、別名『エジプトチェア』とも呼ばれているそうです。
この椅子は肘掛けの幅が広く肘を乗せると非常に安定していて、ゆったりと座ることができます。
椅子の材質の違い
フィン・ユールの『イージーチェアNo,45』は様々な樹種でフレームが製作されています。また座面の材質のバリエーションも豊富でよいですね。また椅子の個性も異なり使う側にも好みは様々です。
オリジナルなのは木材でできたフレームだけなので、特に座面の生地は制作時のままオリジナルにこだわる、今の時代の丈夫な布地やレザーに張り替える、そうした自由度がビンテージ家具の魅力です。
この椅子はフレームが一番のポイントで木材の材質により表情が大きく違います。
当時の椅子と現代の椅子の違い
フィン・ユールの『イージーチェアNo,45』1950年代に作られた当時の椅子と現代の復刻版の椅子はデザインがやや異なります。
写真では紹介していませんが、現在の品質基準を考える上で椅子の構造はすぐれた耐久性を備えていなければならないのが現代の家具です。
思うに現在製作されている椅子は当時の図面や家具自体のオリジナル性は最大限に尊重されつつもフレームの部分には改良が加えられていると思われます。
フレームや前脚と後脚を繋ぐ貫(ぬき)の太さや前方の束(つか)とひじ掛けの接合部が違うような気がします。
こだわりのディテール
フィン・ユールの椅子は芸術品と言ってもよいくらいの美しく精緻な仕上がり。全体からそのディテールまで椅子の構造を熟知して後脚から肘掛けそして前脚まで練り上げられた曲線の流れを見せています。
そしてひとつひとつが個性的で他の追随を許さない。
イージーチェアNo,45の一番の魅力であるひじ掛けの三次元曲面。
流れるような接合部の繋がりの部分は素晴らしく、芸術的な美しさを表現しています。
木材の材質が異なると一変してその雰囲気が変わる。特に木目がはっきりしているものは流麗なひじ掛けのフォルムが強調されます。
彫刻なような椅子と言われる所以です。
内側に曲げているので成形合板を感じさせず且つ強度も向上させている。
見えない部分にもこだわりが感じられる椅子の構造的な部分をデザインしている。
職人の手仕事による高級素材の椅子では生産性が向上しないため、機械加工による社会潮流には対応できない。
また当時の人々にとっては価格も高く、購入ができない。
そのための機械生産により大量に家具を世に出す工夫が必要になり、接合部の少ない成形合板が使用されました。
1951年アメリカのベイカー・ファニチャー社のためにデザインされたベンチ。
アメリカの上流階級の人たちの間で流行した『カクテルパーティ』。そこにインスパイアされてデザインしたものと言われています。
椅子のためのインテリア
『フィン・ユール』は家具や美術作品、日用品と外界の自然との調和を考えて空間を設計。その空間の適切な場所に家具がある。
そこに豊かな暮らしがある世界を理想としていたのでは思う。
『フィ・ユール邸』にその世界を実現している。
フィン・ユールは日用品もデザインしてインテリアに置いた。チーク材によるボウルは表と裏の色合いが異なる。
当時、銀製のボウルは商品化が見送られて、後に金属加工技術が進み、ステンレススチールで製作・販売されました。
実際座ってみたフィン・ユールの椅子
『フィン・ユール』椅子を実際に座ることは少なく、これは貴重な体験でした。
実際に座るとデザインの際立ちとその座り心地はやはりデンマーク家具。
心地よさと安心感そして長時間でもくつろげる上質感いう事なしです。
手触りもよく腰のフォールド感とひじ掛けに腕を乗せる位置などが絶妙でした。
彫刻なような椅子
『フィン・ユール』は1949年の『デンマーク芸術工芸協会』のレクチャーでジャン・アルプなど現代彫刻家の彫刻作品のなかで部分と部分の関係性、部分と空間の関係性とそこに生まれる緊張感など論じたそうです。
椅子は単なる日用品ではなくそれ自体が『フォルム』であり『空間』である。
確かに彫刻とは作品自体が圧倒的に存在するもので、空間に大きく作用しています。
そのモノのマッス(塊)と空間のせめぎあいのような緊張感があります。
そこでフィン・ユールの椅子で彫刻的なアプローチを感じさせる家具を見てみました。
まずは『ポエトソファ』初期の代表的なソファです。
曲面で構成された包み込むようなデザインでその先進性は1940年代の時代を感じさせない。
脚のデザインがなければソファというより彫刻作品のようにも見える。
ショッキングピンクとベージュの組み合わせが可愛い。
この『ペリカンチェア』は当初、肘掛けは上方に向けられたユニークなデザインでしたが機能性を果たさない理由で下向きにデザインされました。
先進的過ぎて当時は受け入れられず商品化されませんでいたが、その後ワンコレクション社が商品化。時間を経て受け入れられて時代が追いついたかたちとなりました。
展示の中にあった1940年当時の『家具職人組合展示会』の写真をみるとソファを中心に照明、調度品、カーペット、絵画、彫刻などをインテリア空間全体を入念に検証した展示を実践している。一度『フィン・ユール邸』を訪れたいと思いました。
最後に東京都美術館のアートラウンジには『フィン・ユール』の家具をはじめいくつかの北欧家具が使われていて自由に座ることができます。ぜひご利用ください。
■佐藤慶太郎記念 アートラウンジ
https://www.tobikan.jp/guide/artlounge.html
■アートラウンジの北欧家具の紹介
https://www.tobikan.jp/media/pdf/2022/guide_artlounge.pdf
『フィン・ユールとデンマークの椅子』展
会期:2022年7月23日(土)~10月9日(日)
会場:ギャラリーA・B・C
休室日月曜日、9月20日(火)
※ただし、8月22日(月)、29日(月)、9月12日(月)、19日(月・祝)、26日(月)は開室
開室時間9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
https://www.tobikan.jp/finnjuhl/
下記サイトでオリジナル商品を販売しています。よろしくお願いいたします。